当研究では、哺乳類の「小胞体ストレス応答」を制御する中心的な因子である「XBP1」の活性化機構の全容を明らかにすることを目的としている。これまでにXBP1に結合する因子としてUBC9(SUMO化経路のE2酵素)とRHA(クロマチンリモデリング因子)を単離した。これらの因子がXBP1の発現にどのように関わっているか調べるために本年度は以下の実験を行った。 前年度までにUBC9とXBP1が結合することを酵母細胞内や哺乳類細胞内で既に調べたが、共免疫沈降法によっても両タンパク質の結合を調べた。HeLa細胞にpXBP1(S)とMycタグを付加したUBC9(Myc-UBC9)を発現させ、抗Myc抗体を用いてUBC9を免疫沈降すると、pXBP1(S)が共沈降してきた。興味深いことに、pXBP1(U)とMyc-UBC9を発現させて免疫沈降した場合もpXBP1(U)が共沈降してくるが、その度合いはpXBP1(S)に比べると少なかった。この結果から、UBC9はpXBP1(U)よりもpXBP1(S)に対してより親和性が高いことが示唆された。これまでに得られた実験結果から、UBC9がXBP1の正の制御因子であるといえる。そこでUBC9がどのようにXBP1の発現を制御しているのか調べることにした。 まず、UBC9を過剰発現した細胞でXBP1タンパク質の分解が抑制されているかどうか調べた。ヒトHeLa細胞にプロテアソーム阻害剤であるMG132を処理してタンパク質の分解を阻害したときのXBP1タンパク質の量がUBC9を過剰発現したヒトHeLa細胞におけるXBP1タンパク質の量とほぼ同等であった。このことからUBC9がXBP1タンパク質の分解抑制因子であると考えられる。ただし、UBC9を過剰発現したためにXBP1 mRNAの量が増加してXBP1タンパク質の量が増加したという可能性も排除できない。そこで次に、UBC9を過剰発現したときのXBP1 mRNAの量を調べた。コントロール細胞とUBC9を過剰発現した細胞を比較すると、小胞体ストレス非存在下、小胞体ストレス存在下に関わらず、コントロール細胞とUBC9を過剰発現した細胞との間にXBP1 mRNA量の差はなかった。UBC9を過剰発現してもXBP1 mRNAの量は変化しないが、XBP1タンパク質の量は増加するという以上の結果から、UBC9はXBP1の分解抑制因子であるといえる。
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