研究概要 |
申請者は低酸素下においてHIF1が結合することにより発現制御されるヒストン脱メチル化酵素の一つであるJMJD1a(jumonji-domain containing 1a)に着目した。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC : human umbilical vascular endothelial cells)を正常酸素分圧および低酸素分圧で培養し、JMJD1aをsiRNAによりノックダウンしたときのDNA microarray、およびJMJD1aをアデノウイルスにより過剰発現させたときのDNA microarrayを行った。その結果、JMJD1aをノックダウンすると低酸素刺激をかけても発現が上昇しなくなる遺伝子群、JMJD1aを過剰発現した上で低酸素刺激をかけると発現がさらに上昇する遺伝子群を同定した。両者に共通してみられた遺伝子群は22遺伝子あり、低酸素刺激下でJMJD1a依存的に発現が制御される遺伝子群すなわちJMJD1aの下流遺伝子群(ターゲット遺伝子群)と考えられた。また、そのうち12遺伝子は低酸素下におけるHIF1のターゲット遺伝子であることから、HIF1およびJMJD1aともに発現制御を受けていると考えられた。さらに、HIF1のノックダウンを行ったうえで低酸素をかけた時のDNA microarrayと比較すると、さらにHIF1およびJMJD1aの下流遺伝子を同定した。 これまでの報告によりJMJD1aはヒストン3(H3)リジン残基9番目(K9)のmono-methyl((me1),di-methy1(me2)を脱メチル化することが知られている。そこで、上記で同定したJMJD1aのターゲット遺伝子上で、これらのヒストン修飾状態が低酸素刺激によりどのように変化するかを調べた。申請者はJMJD1aのターゲット遺伝子候補の一つであるSLC2A3に着目し、H3K9me2抗体を用いてヒストン修飾変化をCHIP-PCRで同定した。SLC2A3の転写開始点(TSS : transcriptional starting sites)と上流35kbのenhancerにおけるH3K9me2レベルは低酸素刺激下において低下することが分かった。このことから、JMJD1aはSLC2A3のTSSおよびenhancer領域において、H3K9me2を脱メチル化し、発現制御する新たなメカニズムを解明することに成功した。現在はJMJD1a抗体を用いたクロマチン免疫沈降)を行い、JMJD1aが機能する部位を全網羅的に解析することを行っている。
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