研究課題
申請者は低酸素下において転写因子HIF1が結合することにより発現制御される遺伝子を網羅的に解析した。その結果、一連のヒストン脱メチル化酵素群の発現が上昇し、生体にとって重要な役割を果たす可能性が高いことを突き止めた。そこで、ヒストン脱メチル化酵素の一つであるKDM3A(JMJD1a : jumonji-domain containing 1a)に着目した。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC : human umbilical vascular endothelial cells)を正常酸素分圧および低酸素分圧で培養し、HIF1およびKDM3AをsiRNAによりノックダウンしたときのDNA microarrayを行った。その結果、HIF1をノックダウンした際に低酸素下における誘導がかからなくなる遺伝子群すなわちHIF1の標的遺伝子は480遺伝子プローブ、KDM3Aの標的遺伝子は340probes、双方の下流にある遺伝子はそのうち123probesであった。HIF1とKDM3A双方から協調して発現制御を受けている遺伝子群の機能は解糖系に関わる重要な遺伝子群が多く含まれており、低酸素における細胞の生存・維持に解糖系が重要な役割を果たすことが明らかとなった。さらに、申請者はHIF1とKDM3Aの双方に制御される遺伝子群の中で、HIF1の結合がみられたSLC2A3(solute carrier family 2A3)に着目した。KDM3A抗体を用いてChIP(Chromatin immunoprecipitation :クロマチン免疫沈降)を行い、SLC2A3のHIF1結合領域にKDM3Aがリクルートされるかどうかを調べた結果、KDM3Aは低酸素下においてのみ、これらのHIF1結合部位にリクルートされ、HIF1をノックダウンすると低酸素下においても同部位にリクルートされなくなることが明らかとなった。以上の結果よりKDM3AはHIF1依存的にSLC2A3のHIF1結合部位へリクルートされることを明らかにした。そして共免疫沈降によりHIF1とKDM3Aが低酸素下においてのみinteractionがあることを確認した。以上の結果より低酸素下で解糖に関わる重要な遺伝子がHIF1だけでなくKDM3Aによっても協調的に発現が制御されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
特別研究員採用後から行った実験結果は論文投稿中であり、現在revisionの状態であることから近々、研究成果として発表予定である。
申請者は本テーマで見つけた低酸素下におけるヒストン修飾酵素と転写因子HIF1の協調的遺伝子発現制御機構についてさらにテーマを発展させている。具体的には、低酸素下におけるクロマチン立体構造変化を網羅的に同定することを試みている。クロマチンの立体構造を同定する手法は新規手法でありまだ確立されていない部分も多いため、実験の条件検討が詳細に必要であるが、十分な検討を重ねたうえで、クロマチンの立体構造変化が生体にとって果たす役割を解明したいと考えている。
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