本年度はまず計画に従い、軍隊が帝国政治において最も強い影響力を及ぼし得たであろう場面である後期ローマ帝国における皇帝即位の事例を収集するため、一次史料と関連する研究文献の収集に努めた。この過程において、後期ローマ帝国における皇帝即位、あるいは皇帝擁立の背景や過程が非常に多岐にわたること、そして先行研究でも非常に困難な問題として扱われていることを確認した。しかしながら同時に、先行研究では皇帝即位の背景に専ら重点が置かれていることを発見し、いわゆる簒奪に対して皇帝がどのような対策をとり、どのように対応していたかという点が見過ごされていることを発見した。この発見を踏まえて、研究内容を深化させ、問題点の絞り込みと明確化を図るために、改めて対象とする時代を選定した。具体的には、対象とする時期を紀元後330年代から360年代まで、主に皇帝コンスタンティウス2世が支配した時期に決定した。この理由は、彼がコンスタンティヌス大帝による再統一後の帝国を受け継ぎ、20年以上にわたる長期政権を保った皇帝であり、その支配期間にはマグネンティウスの反乱をはじめとするいわゆる簒奪の事例が十分に認められること、また当該時代の研究は世界的に見ても未だ不足の状況にあり、その必要性が認められることなどである。こうした作業と並行して、研究史上軍隊の影響力がその結果を左右したとされてきたカルケドン裁判の背景について再検討を加え、軍隊の影響力は判決の結果には無関係であることを発見した。さらにこの裁判の背景に、コンスタンティウス2世からユリアヌスへの帝位継承に伴う権力基盤の変化があったことを論じ、この成果を研究会において口頭発表した(2010年8月、東北学院大学)。
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