研究概要 |
本年度は衝動性と密接に関連するサイコパシーと道徳的寛容性との関連の検討を通じて、社会的場面でのサイコパシーの行動ならびに意思決定と報酬・罰感受性との関連について検討した。サイコパシーとは、利己的で冷淡という情緒・感情面の特徴を示す一次性サイコパシーと衝動的行動を特徴とする二次性サイコパシーを含む複合的な個人特性と定義されている(Hare,1991;2003)。そして、サイコパシー傾向の高い人は「5人の命を救うためには1人の命を犠牲にしなければならない」といった道徳的ジレンマを解決する際に、手段はどうであれ得られる結果を最大にしようとする功利主義的判断(上述の場合、5人を助けるために1人を犠牲にする)を選択しやすいことが明らかになっている(Koenigs et al., 2011)。本年度はサイコパシーと道徳的寛容性との関連をさらに詳細に検討するために、功利主義的判断もしくは義務論的判断(例え最良の結果が得られなくても、最低限守るべき義務に従うべきという考え方)に従って行動した他者への寛容性の程度とサイコパシーとの関連を検討した。 実験参加者は大学生61名(男性27名)で、サイコパシー傾向を測定する質問紙の得点に応じて低サイコパシー群・高サイコパシー群に分類された。参加者は、道徳的ジレンマの解決に関する文章を読み、文章内の人物の行動をどの程度許せるかの判断を行った。実験の結果、高サイコパシー群は、低サイコパシー群に比べて、功利主義的判断に基づいて行動した人物に対してより寛容的であった。さらに、一次性サイコパシー傾向の高い人ほど功利主義的判断に基づいて行動した人物に対してより寛容的であった。以上より、サイコパシー傾向の高い人は、得られる結果を最大にしようと行動した、自らの意思決定方略と類似した他者に対しては比較的寛容的であることが明らかとなった。
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