遺伝子診断の導入による新しい乳癌診療体系の確立

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11307019
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 野口 眞三郎 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10303942)
• 研究分担者: 丹治 芳郎 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (90263269) ; 田口 哲也 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (80243260) ; 芝 英一 大阪大学, 医学系研究科, 助教授 (90215997) ; 塚本 文音 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (70303964) ; 三好 康雄 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (50283784)
• キーワード: 乳癌 / 遺伝子診断 / 微小転移 / 乳癌罹患リスク / 遺伝性乳癌 / BRCA1 / BRCA2

研究概要

遺伝子診断を種々の乳癌診療領域に導入すべく研究を進めている。以下に、現在までの研究成果を要約する。
(1)穿刺細胞診検体を用いたFISH解析による乳腺腫瘍の良性悪性の鑑別診断:乳腺腫瘍の穿刺細胞診検体(n=176)を用いて、1、11、17番染色体の数的異常をFISH法で解析したところ、FISH法の良性悪性の正診率は91.5%で通常の細胞診(86.4%)と同等であり、かつ、細胞診では悪性と判定し得なかった乳癌15中13例がFISH法では悪性と診断し得ることを見出した。(2)定量的cytokeratin(CK)19mRNA RT-PCRを用いた乳癌の微小骨髄転移の診断:CK19 mRNAをターゲットとした定量的RT-PCR(Taq-Man法)を用いて、原発乳癌117例を対象として乳癌の微小骨髄転移の検出を試みた。その結果、40例(34.2%)に微小転移が検出され、かつ、微小骨髄転移陽性例の予後は陰性例に比して有意に不良であった。(3)家族性乳癌の遺伝子診断:家族性乳癌・卵巣癌家系(n=120)の解析によってBRCA1の変異が15例、BRCA2の変異が10例に同定された。乳癌と卵巣癌が集積する家系(46.7%)、両側性乳癌患者(40%)または若年発症患者(35.7%)が存在する家系ではBRCA1またはBRCA2の変異が高頻度であった。BRCA1乳癌は悪性度の高い乳癌であることが分かった。(4)乳癌罹患リスクの診断(CYP17、CYP19):CYP17、CYP19のSNPと乳癌罹患リスクの関係を明らかにするために散発性乳癌(n=203)と健常女性(n=199)を対象としてcase-control studyを行った。CYP17の5'非翻訳領域に存在するSNPについては、variant alleleをhomoで持つ女性はそれ以外の女性に比して閉経後の乳癌に1.6倍罹患し易く(p<0.05)、また、CYP19のexon 2のSNPについてはvariant alleleをhomoあるいはheteroで持つ女性はそれ以外の女性に比して乳癌に罹患しにくい(罹患リスク=0.55、p<0.05)という結果を得た。更に、CYP19のintron 4に存在する tetranucleotide(TTTA)repeat については、repeat数が8以上のalleleをhomoで持つ女性はそれ以外の女性に比して乳癌罹患リスクが1.7倍高い(p=0.06)という結果を得た。

研究成果

• [文献書誌] Noguchi,S.,et al.: "Clinicopathologic analysis of BRCA1-or BRCA2-associated hereditary breast carcinoma in Japanese women"Cancer. 85. 2200-2205 (1999)
• [文献書誌] Yoshikawa,K.,et al.: "Reduction of BRCA1 protein expression in Japanese sporadic breast carcinomas and its frequent loss in BRCA1-associated cases"Clin Cancer Res. 5. 1249-1261 (1999)
• [文献書誌] Higashiyama,T.,et al.: "Measurement of the expression of oncofetal fibronectin mRNA in thyroid carcinomas by competitive reverse transcription-polymerase chain reaction"Thyroid. 9. 235-240 (1999)
• [文献書誌] Sugimoto,T.,et al.: "Suppression of parathyroid hormone-related protein messenger RNA expression by medroxyprogesterone acetate in breast cancer tissues"Breast Cancer Res Treat. 56. 11-23 (1999)
• [文献書誌] Yutaka,K.,et al.: "Comparison of dual-head coincidence gamma camera FDG imaging with FDG-PET in detection of breast cancer and axillary lymph node metastasis"J Nucl Med. 40. 1003-1008 (1999)
• [文献書誌] Motomura,K.,et al.: "Malignant seeding of the lumpectomy cavity upon breast-conserving surgery"Oncology. 57. 121-126 (1999)