研究概要 |
建築鉄骨の脆性破壊は溶接接合部に生じるので,溶接の影響を明らかにする実大実験を行った.試験体は高層建築に使われる大形のボックス柱とし,板厚は40mmである.実験変数は、溶接入熱(40kJ/cmと800kJ/cmの2段階),材料特性(0℃シャルピー衝撃値が50Jと140Jの2段階)である.破壊起点の形状は先端半径0.25mmの人工ノッチとし,溶接熱影響部の中でもっとも脆化しているボンドに設けた.これは,この研究で行った鉄骨溶接部の実態調査に基づき,現実に起こりうるもっとも厳しい条件としたものである.試験温度はドライアイスで制御し0℃とした. この実大実験により,次のことが判明した.脆性破壊は弾性領域では起こらず,降伏後の塑性変形過程で生じる.破壊のプロセスは,ノッチ底に生じた延性き裂が塑性変形過程で成長し,それが限界き裂深さに達したとき脆性破壊する.溶接入熱の影響は非常に大きく,大入熱溶接は脆性破壊までの塑性変形能力を著しく低下させる.母材特性の影響も大きく,高靭性の鋼材ほど溶接後も高い塑性変形能力を発揮する.さらに,この実大破壊実験と並行して実施した溶接部のミクロ調査により,溶接入熱による破壊靱性の低下と母材の初期靱性との関係が明かとなり,これが鉄骨部材の破壊抵抗に関わっているという新たな知見が得られた. 今後は,これらの実験事実に基づいて破壊条件を定式化すること,地震時の入力特性との関係を明らかにすること,破断を防止するガイドラインを作成すること,である.
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