研究課題
本年度は研究代表者・分担者による研究会は2度(1月と2月)開き、進捗状況に関する情報交換および議論を行ない、併せて最終年度に当たる来年度の研究計画について協議した。本年度の顕著な成果は以下の通りである。日本美術の分野における今年度の最も重要な研究は能登地方に遺る長谷川信春(等伯)の作品調査であった。能登から京都へと活動の場を移した等伯の画業の展開を考えるために、佐藤・山下は石川県内の信春作品を全て調査し、信春の作域を確認した。このほか山下は京都の等伯資料を、佐藤は岩佐又兵衛や文人画に関する作品を調査した。研究代表者は前年度に引き続き、芸術家の旅行を裏付けたり、遍歴経路を示唆する15世紀初めの手本帖・素描帖の研究として、特に「ジャック・ダリウェの素描帖」の二種のファクシミリ版に拠った詳細な研究を行なった他、10月初頭にフィレンツェ、ウフィツィ美術館版画素描室において、15世紀初頭に恐らく遍歴不祥画家の手で一冊に纏められたスケッチ帖の実見調査と焼き付け写真購入を行ない、研究を開始した。またその指導の下に、画像および文字データ入力の終了した「ゴヤのイタリア画帖」の研究が進展中であり、ベラスケスの第一次、第二次イタリア旅行に関するフランチェスコ・パチェーコ『絵画論』とアントニオ・パロミーノ『スペインの桂冠画家列伝』中の記事のスペイン語原文からの邦訳を完成させた。この他各研究分担者により前年度からの研究課題が続行されている。また5月22日東大文学部において越川を中心とした運営によりニコス・ハディニコラウ氏(クレタ大学美術史学教授)による本研究課題に密接に関連する講演「エル・グレコのビザンティニスムをめぐって」を催行し中心に有益な議論が交わされた(同講演の翻訳は『美術史論叢』第17号に掲載のため印刷中)。
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