研究概要 |
前年度までの研究によって,胎仔胸腺(FT)中の最も未分化なT前駆細胞はNK系列への分化能を有するp-T/NKであること,さらにT細胞分化が進むにつれてT系列のみに分化する前駆細胞(p-T)が増えることを明らかにしてきた. 今年度は,p-T/NKのTおよびNK系列への決定の分子機構を明らかにするために転写抑制因子Id2の役割りを検討した.Id2はB細胞の分化に関与している転写因子E蛋白(E47,E12,HEB,E2-2)機能を阻害する抑制因子であり,Id2ノックアウトマウスではNK細胞の分化が阻害されることが知られている.いろいろの分化段階にあるFT細胞におけるId2およびE蛋白をコードする遺伝子発現を検討した結果,Id2の発現レベルはNK系列のみに分化する前駆細胞(p-NK)が多い分画で高かった.一方,E2A,HEB遺伝子の発現は分化段階にかかわらず一定であった.これらの結果から,FT中のp-T/NKでId2が発現すればNK系列に分化し,発現しなければT系列に分化することが示唆された.実際にId2ノックアウトマウスFT中の個々の前駆細胞の分化能をしらべると,上記の概念を支持するデータが得られた.そこで,胎仔肝臓(FL)中のp-T/NKにレトロウイルスベクターを用いてId2遺伝子を導入・過剰発現させ,分化におよぼす作用を調べたところ,予想に反してT系列のみならずNK系列細胞も出現してこなかった.また,FL中でp-T/NKが濃縮して存在している細胞群ではId2遺伝子が発現していなかった.これらの結果は,p-T/NKにおいてはE蛋白が必須であるとともに,NK系列決定においてもId2とE蛋白のバランスが大事であることを示している.今後の課題として,p-T/NKおよびp-TにおいてはE蛋白がどのような遺伝子群を転写調節しており,NK系列決定においてはどのような遺伝子の発現がシャットダウンされるのかを明らかにする必要があると考えられた.
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