研究概要 |
今年度は,主に現実のモデルの解析から始めた.具体的には,マルチエージェントシステムと呼ばれる系について,そのカオス性を調べ,この系について既に発表されているカオス制御の数学的定式化を行った. 銀行のキャッシュディスペンサーにお客さんの列ができていたとする.列の長さは長くなったり短くなったりして,カオス的になることが知られている,これについて既に知らされている数学モデルを解析し,有限型の記号力学系と局所的に位相共役になることがあることを示し,位相幾何学的にカオスになっていることを証明した.また,子供やお年寄りなどいろいろな人が並んでいると,安定化することを例示した.これは実用化には向かないが,数学理論として,系の線形和を考えるという新しい視点を与えた 一方,数学理論の面においては,ファイバー不変測度という概念を研究し,その再構築と応用をえた.本研究では,カオス制御に数学的に意味のある評価式を与え,これをもとに定式化することを目的としている.ファイバー不変測度の発見とその改良は,「軌道の変化率の長さの2乗を軌道に沿って積分し,更に全体で積分したもの」とする出発点の評価式について,これを評価する手段を与えるものとなる.評価自身には未だに到っていないが,本質的な意味を与えているものと思われる.実際,軌道の変化率自身は,その長さと角度で調べることができ,それは相互に影響を与えていることが知らされている.ファイバー不変測度により角度を測ることにより,角度の回転を等角的に近似することができ,これにより回転数が定義できる(本年度の研究で,これがルエル不変量と呼ばれていた概念と一致することが示された).この回転数と軌道の変化率の長さを軌道に沿って積分したものが,相互に関係しているという点で,評価を与えられる.
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