研究概要 |
"将来を予測不可能な現象"がカオス現象である.これについては様々なシミュレーションが行われてきたが,実用化された理論はほとんどなかった.しかし,近年オット・グレボギ・ヨークによりカオス制御という理論が提唱され,一躍実用化が注目を集めるようになった.本研究では,カオス制御を数学的に定式化することを目標とし,数学的理論化(理論面)と現象の数学的定式化(応用面)を行った. 理論面としては,リアプノフ指数に関連して,ファイバー不変測度の定義と特徴づけ,ルエル不変量の評価,射影流のリフトの定性的特徴付け,射影アノソフ流の分岐点,射影流の鎖循環集合,余次元2例外極小集合の研究を行った.流の微分の直交射影を射影化することで,射影空間をファイバーとするファイバーバンドル上に流が誘導される.これを射影流という.リアプノフ指数が微分の伸びを表すのに対して,射影流は微分のひねりを表している.上記の研究により,微分のひねりを表す指標であるルエル不変量から力学系の定性的な性質を導くことに成功した.これにより,カオス現象の判定手段として,リアプノフ指数以外に,ルエル不変量も意義があることがわかった.数学的にはルエル不変量の方が扱いやすい点で,有意義な進展であると考える. 一方,応用面においては,マルチエージェントシステム,スィッチアライバルシステム,カオス水車,気象モデルについて,数学的定式化を行った.たとえば,カオス水車については,マルクス水車の導出を行い,カオス性がパリー写像から来ることを導いた.パリー写像は数学的によく調べられているもので,カオス制御が自然に定義できる.この点で,カオス制御の理論化に道筋を立てた.
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