研究概要 |
コミュニケーション行動における共同注意(Joint Attention)については、Premack(1978),Baron-Cohen(1995)の「心の理論」,やButterworth(1986),Tomasello(1995)の「共同注意」の概念がある。「Joint Attention;Its Origins and Role in Development」(C.Moore & P.J.Dunham ed.Lawrence Erlbaum Associates,Inc.)を中心とする文献のレビューを踏まえて、肢体不自由を伴う重度・重複障害児の前言語的対人相互交渉に関する研究動向について整理した。特に他者にメッセージを伝るために、身振りや音声等を操作する意図的コミュニケーション(intentional communication)行動が生起する前の段階における前言語的対人相互交渉の課題を検討した。この結果は、特殊教育学研究第38巻第3号に掲載された。 これらの研究理論や研究方法を参考として、重度・重複障害児を対象として、共同注意成立を評価するための事例研究を行った。研究の対象とした事例が、視覚障害を伴う重度・重複障害児であり、注視に関する行動目録については、この事例においては適用しなかった。遊び場面における教師と子どもの相互交渉を取り上げた。頭の動き、手の動き、表情、わずかな発声を行動指標に、教師の働きかけとのつながりを整理した。この経過については、事例研究として特殊教育学研究に投稿予定である。 また、1重度・重複障害児のコミュニケーション行動における共同注意に焦点をあてた教育実践に関する意見交換をするために英国出張を行った。重度・重複障害児におけるコミュニケーション手段としては、身体接触を伴う方法が効果的であり、からだの動きを手がかりとした相互交渉を検討している研究グループと情報交換した。その結果、からだの動きを子どもの表現として捉えることを前提として、(1)乳幼児の発達と相互交渉という視点を導入すること、(2)子どもの内的体験、体験世界の拡大という捉え方を導入することが、臨床的な関わりにおいては、重要となることが示唆された。
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