研究概要 |
この研究で中心的に取り上げる中世文芸作品2件の,それぞれの索引 辻村敏樹編『とはずがたり総索引 自立語編』1992年,笠間書院発行 近藤政美他編『平家物語<高野本>語彙用例総索引 自立語篇』1996年,勉誠社発行 で自立語彙とされているものについて,昨年度,出現頻度を計数し,コンピュータ入力した。本年度は,その結果と,中古文芸諸作品を中心とする宮島達夫編『古典対照語い表』(1971年,笠間書院発行)の成果とを対照した。参考とする中世文芸作品『たまきはる』『竹むきが記』も,同様である。 中古文芸諸作品と中世文芸諸作品との対照によって,語(単位)の認定にさまざまな問題があることが判明した。問題というのは,和語について,(1)中古で独立していた動詞が,中世で補助動詞化ないし助動詞化することがあるが,両者をどのように調整するか。漢語について,(2)語の連続と見えるようなものをどのように切りないし続けるか,(3)語に切り出したもの同士が同語であるか別語であるかをどのように認定するか。また,個有名詞について,(4)同一であれば語としても同じとするか指示対象によって別語とするか。といったものである。 こうした問題は研究開始前にある程度予測していたが,実際の処理を始めた本年度になって,予想以上に複雑であることが分かった。処理のしかたによっては,宮島『古典対照語い表』の改訂,すなわち中古文芸作品の語彙の全体的な見直しに及ぶことにもなる。そこで,本年度は,直ちに問題を処理することをせず,実験的処理をしてどのよう処理が可能であるかを探るにとどめた。
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