ロースクールの設置が現実化するなど法学教育の在り方が大きく変わろうとする状況の中で、法制史教育はその存在価値をいかに示すことができるのか。研究計画はこの観点のもとに立てられた。計画の中心は、今は亡き過去のあるいは現在活躍中の優れた法史学者の研究・教育活動を振り返ることで、法制史教育の意義を明らかにすることであった。過去の法史学者として取り上げたのは栗生武夫である。西洋法制史のみを専門分野としたわが国最初の法史学者である。栗生は、法制史教育は「法規史」でなければならないという提案をする。この提案のきっかけは、ワイマール時代のドイツに留学し、激流のように進行する法学教育改革とその改革の中で繰り出される厳しい法制史教育批判の実際を見聞したことであった。本研究で、栗生武夫のいう「法規史」とは何か、ワイマール時代の法学教育改革と法制史教育批判の実際はどのようなものであったのかを明らかにできた。現在活躍中の法史学者についてはインタビューをし、それを活字にした。大竹秀男神戸大学名誉教授の分はすでに印刷され発表された。未発表ではあるが原稿が完成しているものとして、井ケ田良治同志社大学名誉教授の分がある。現在編集中のものは、故・熊谷開作大阪大学名誉教授の学問について4人の門下生にインタビューしたものがある。法制史教育は法学教育を一つにまとめあげる精神的紐帯であること、教育で大切なことは事実の伝達ではなく「体系と方法」を教授することである、というのがこれらの作業から引き出すことができた最重要な結論である。他の成果としては、日本学術会議のシンポジウム「変動する法学教育と基礎法学の課題」(1999年12月18日、関西大学)で報告ができたことや、1987年に公表した年表「わが国における法史学の歩み(1873-1945)」の修正版を作成できたことである。
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