研究概要 |
本基盤研究(C)「資産価格決定理論に基づく状態価格分布の計測」は,最終年度にあたっているために,過去3年間に行ってきた理論・実証研究成果の学会報告,学術雑誌への投稿,学術雑誌や単行本による出版をすることに注力してきた。本基盤研究では,日本の証券市場で観察される派生商品価格に対して,リスク・プレミアムや流動性プレミアムの形成メカニズムを理論的に明らかにするとともに,理論モデルの含意を実証的に検証してきた。 それらの研究は,以下のような研究成果として結実している。いずれの研究成果も当該分野における重要な貢献となるとともに,いくつかの論文は国際的に定評のある学術雑誌にも掲載されることになった。 Takagi and Saito,"Nonparametric estimation of state-price densities : An application of the local polynomial estimator"(現在,査読に基づいて改訂中)と齊藤・高木(2000)は,大阪証券取引所の株価指数オプションのデータから将来の株価指数に関するリスク情報を状態価格密度関数の形で推計している。特に,日本のデータの特色である行使価格のポイントが少ない状況に適したノンパラメトリック推計(local polynomial estimator)を適用している。 齊藤・大西(2001)は,2000年4月の日経平均銘柄入替の前後について銘柄株価指数先物価格と現物価格の格差(ベーシス)の動向を分析することによって,個々の銘柄に市場流動性プレミアムが生じたことを検証している。福田・斉藤・高木(近刊)は,金利スワップの期間構造の情報を活用しながら,国債現物に生じたコンビーニエンス・イールドを計測し,その形成要因を特定している。 Fukuta and Saito (forthcoming)は,為替の派生取引であるフォワードについて,短期金融市場の流動性効果のインパクトを計測している。ファンダメンタルズからの乖離という点で関連する研究としてFukuta (forthcoming)は,バブルによって株価がファンダメンタルズから乖離する状態を実証的に検証している。 齊藤(2001a, 2001b)は,当該分野の展望論文である。 上述の研究成果の報告を通して,リスク・ファクター,流動性ファクター,コンビーニエンス・ファクターが派生商品価格に反映する理論的なメカニズムを実証的に検証する手続きについて手法上の重要な貢献をするとともに,日本の資本市場の資産価格形成メカニズムについて貴重な実証的所見が得られた。
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