研究概要 |
本研究の目的は生活の単位である世帯の多様化という視点から生活リスクに備えるべき社会保障の機能を再検討することであり,今年度は主に予測のための準備作業として以下の2つの課題について検討を行い,以下の研究成果を得た。 第1に、予測を行うために既存データの比較可能性について詳細に検討した結果,以下の問題点が存在することが明らかとなった。 1 国勢調査と全国消費実態調査の年齢別統計表を比較できるのは全世帯,あるいは勤労者世帯までであり,さらに詳細に分割した世帯構造別,あるいは世帯類型別に見る場合にはデータを継続的にとることが難しく,新たな工夫が必要となることである。 2 1つの解決方法として,国民生活基礎調査から求められる世帯構造の変動の結果と組みあわせた推計作業を行った。 第2に、世帯構造のなかで最も多くの比率を占めている「親と未婚の子」の世帯について最近15年の変化を検討したところ,以下の知見を得た。 3 1990年代の特徴として親と同居する未婚成人の増加が統計的に確かめられ,未婚成人は比較的豊かな世帯に属しており,仕事を有していない者の数は所得の高い世帯ほど多いこと,有業率は加齢とともに低下すること等を明らかにすることができた。 4 同居による生活保障の大きさは,同居しない場合に比較してジニ係数を0.1小さくする効果を持ち,税制や社会保障制度による所得再分配よりも所得格差を緩和する効果は大きいこと等を明らかにした。 5 これらの結果は,社会保障水準を考える場合の基本的単位を世帯を中心に考えるにしても,個人単位にするにしても大きな問題となることを示唆している。
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