本研究の目的は、日本古代・中世の貴族住宅が有する<都市性><序列性><立地性><社会・文化性>についての、芸能空間という視点からの解明にあり、研究方法は一つに文献史料の博捜・整理、二つめに発掘成果の実見と分析、三つめに芸能史や国文・美術史学など関連分野との討議を通しての情報交換がある。以上3点を併行して進めたが、平成11年度(初年度)〜12年度は文献史料の収集と整理、および住宅遺跡の実見とこれに関連する最新情報の収集という前2者を中心に取り組み、平成13〜14年度は三つめの情報交換をも加えて作業を行ってきた。 11年度は研究目的のひとつ<序列性>について歌合の空間あるいは、中世の新たな空間として弘御所に注目して検討を加え、ハレでもケでもない中間的領域の存在を確認、12年度はその中世内裏における実態解明のための基礎作業として、中世後半の土御門洞院内裏の復原的検討を行い、議定所の存在に芸能空間成立のひとつのあり方が示唆されるとの見通しを得た。13年度は議定所を擁する天皇居所全体に注目する中で、御学問所や御三間といった中世後半以降新たに成立する奥向き空間の動向を検証。さらに14年度(今年度)は前年度の検証を踏まえ、天皇居所の奥向きに展開する諸室のうち、近世以降一殿舎として拡大、独立する御学問所に注目して検討を加え、次の新知見を得た。また御学問所の空間的成立は後花園朝であり、応仁文明の乱後は文芸活動など学問的用途が拡大、さらに15世紀以降康正度内裏では私的対面という用途が新たにみえるが、内部空間の規模拡大はないことなどである。 今後の課題として、公的空間での芸能活動の展開が<都市性>に深く関与する可能性に留意しつつ、本研究で概観した中世内裏における芸能空間の様相、その展開過程を天皇居所という具体的場に即して考察する必要がある。
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