研究概要 |
オオハマニンニク(Leymus racemosus,2n=28)は海岸に自生するコムギ連の多年生野生植物である。生育旺盛であり、生育環境から考えても、いろいろな生物的および非生物的ストレスに対し、強い抵抗性をもつものと考えられる。本研究では、オオハマニンニクとパンコムギの雑種後代から、オオハマニンニク染色体を添加したパンコムギ系統を選抜した。そのためには、オオハマニンニクの各染色体を識別同定する必要があった。そこで、同種ゲノムから、染色体のマーカーとして適した反復配列をクローニングし(論文1,2)、これをプローブとした多色in situ hybridizationによって、全染色体のイデオグラムを作成した(論文2)。これまでに、14種の染色体の内、8染色体については、ダイソミック添加系統を、4染色体についてはモノソミック添加系統を得ることができた。残り2染色体は伝達せず、添加系統が得られなかった。これらの添加染色体の内、J2染色体は、雄性から選択的に伝達した。添加系統の中には、スペルトイド(穂先が尖る)や芒をもつものなど、形態の変異を示すものがあった。添加系統における染色体識別の過程で、染色体マーカーの1つ、TaiI-family配列が、コムギの動原体にシグナルを示すことを偶然見つけた。コムギにおいては、これまで、動原体に存在する縦列型反復配列は報告されておらず、ここで得た配列が最初の報告となった(論文3)。添加系統作成の過程で、セレクトアウトした様々な本数のオオハマニンニク染色体を含む雑多な集団を、通常より遅く梅雨時期に収穫し、さらに、乾燥後、穂を浸水させることによって穂発芽耐性があると思われる系統を選抜した。今後、この研究で得た系統を様々な特性について評価すると共に、農水省と共同研究して、育種素材として発展させていく予定である。
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