研究概要 |
「幼生飼育」タラバガニ類種苗生産における常用の餌料は珪藻Thalassiosira nordenskioeldiiとArtemiaノープリアスの併用である。両種ともEPAに富むが,DHAに乏しい。大量培養後,凍結乾燥したThalassiosiraにマグロ油(DHA含量23.3%)を吸着させた。強化したThalassiosiraのDHA含量は乾燥重量100g当り0.03gから1.15gに増加した。この強化Thalassiosiraを摂取したArtemiaノープリアスを投餌したハナサキガニのゾエアの生残率は74.2%で,対照区(無強化Artemiaノープリアス投餌区)の40.4%に比較して有意に高い値を示した。なお,同様な目的で製造市販されているDHA強化ビール酵母及びSpirulinaを用いて同様に飼育を行ったが,生残率はそれぞれ56.2,55.7の中間値を示した。「グロコトエ飼育」グロコトエは変態後約1日間専ら遊泳しているが,2-3日も経過すれば化繊ネット(糸の径約0.25mm)を胸脚で把握して着生する。グロコトエは新しいネットに選択的に着生し、珪藻等で汚染されたネットを忌避する傾向がある。水温8-10℃でのグロコトエの期間は約21日間であるが,約14日間も経過すれば殆どネットから離脱しない。無摂餌のグロコトエの生残率に影響する要因は主にゾエア期の栄養条件であるが,最近になって冷水性ビブリオによる感染症の死亡率が70-80%に達する例も生じた。飼育水中の培養Thalassiosiraの繁殖は水質維持に効果があるが,その沈降はゾエア・グロコトエの衰弱と発病を促進する。薬剤に頼ることなく,ゾエア3齢での換水は生残率の改善に効果が認められた。「稚ガニ飼育」ハナサキガニは底質の下に潜伏するが,タラバガニは底質の上に歩脚で立ち上がる姿勢をとる。腹部を底に密着するハナサキガニの0歳での生残率は74-83%,一方タラバガニのそれは95-98%の高値であった。なお平成7-8年度の種苗生産に由来するタラバガニ及びハナサキガニは,水温8-10℃では4歳で再生産を行った(水温:8-10℃,餌料:ムラサキイガイ)。
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