好中球は炎症の主要な担当細胞であり、炎症の様々な現象と深く関わっている。好中球依存性の血管透過性亢進(VPE)もその一つであるが、その機序は未だ解明されていない。そこで、好中球の重要なライソゾーム酵素であり炎症刺激で放出されるエラスターゼに注目し血管透過性亢進の分子機構を調べた。精製したヒト好中球エラスターゼを血漿とインキュベートすると、0.3μMからVPE活性が産生され、酸化してエラスターゼの内因性インヒビターであるα1-プロテアーゼインヒビターを失活させた血漿からは約3倍の活性が産生された。しかし、キニノーゲン欠損血漿からはVPE活性は産生されなかったので、エラスターゼは高分子キニンノーゲン(HMWK)からVPE活性を産生していると推定された。それで、HMWKとエラスターゼをインキュベートすると3nMからVPE活性が産生されたので、これをペプチを分離・精製してアミノ酸配列を決定した。このペプチド(E-キニン)はSLMKRPPGFSPFRSSRIで強力なVPEペブチドであるブラディキニン(BK)配列RPPGFSPFRを含んでいた。合成したE-キニンはBKに匹敵するVPE活性を持つもののBKの有する平滑筋収縮作用はなかった。 ところが、E-キニンのVPE活性はBK-B2-リセプター拮抗剤で抑制されたことから、in vivoでカルボキシ末端側のSSRIが切断されてVPE活性を発揮することが示唆された。以上の結果から、好中球はエラスターゼによってキニノーゲンからE-キニンを産生し、これがBK-B2-リセプターを介してVPEを誘導することが明らかとなった。
|