研究概要 |
1.ヒト急性呼吸窮迫症候群(ARDS)におけるFas/Fas ligand発現とTリンパ球に対するアポトーシス誘導 27例のARDS剖検肺について、Fas/FasL蛋白およびmRNAの検出と発現細胞の同定を行った。新鮮凍結ARDS肺組織切片にFas陽性Jurkat T細胞を加え、同細胞に対するアポトーシス誘導頻度をDapi蛍光染色により測定した。また、抗FasL抗体を前処置することにより抑制実験を行い、アポトーシス誘導の特異性を確認した。FasはARDSの全期に検出された。FasLは急性期の肺胞上皮細胞に強く発現していたが、硝子膜形成期と器質化期では減弱する傾向が見られた。ARDS肺組織はJurkat細胞のアポトーシスを誘導したが、その頻度は急性期が最も多く、硝子膜形成期と器質化期には減少した。このJurkat細胞のアポトーシス誘導は抗FasL抗体でほぼ完全に抑制された。急性期のARDS肺胞上皮細胞におけるFasLの発現は、リンパ球など炎症細胞に対するアポトーシス誘導に関与しており、肺胞上皮の保護防御機能を担っている可能性が示唆された。 2.ラット単離II型肺胞上皮細胞のFas/Fas Iigand発現とTリンパ球に対するアポトーシス誘導 ラットからII型細胞を単離し、Fas/FasL蛋白およびmRNAの発現を検討した。II型細胞にFas陽性のJurkat T細胞を加え6時間co-cultureし、Dapi染色によりアポトーシスの頻度を計測した。II型細胞にあらかじめLPS, TNF-α, IL-1β, IL-8を加え刺激した時、および、抗FasL中和抗体(NOK-1)で前処置した時にも同様に検討した。非刺激II型細胞はFas/FasL蛋白およびmRNAを発現し、あらかじめサイトカインで刺激しておくとFas/FasLの発現は増強した(LPS<TNF-α<IL-8<IL-1β)。非刺激II型細胞とco-cultureしたJurkat T細胞の約5%にアポトーシスが誘導され、サイトカインで刺激しておくとアポトーシスの頻度は有意に増加した(LPS 8%, TNF-α17.5%, IL-1β 20%, IL-8 22%)。NOK-1はJurkat T細胞へのアポトーシス誘導の約80%を抑制した。サイトカイン刺激ラット単離II型細胞はFas陽性Jurkat T細胞にアポトーシスを誘導したが、この反応にはFas/FasL系が特異的に関与していることを示した。
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