研究概要 |
原因不明の難治性疾患である多発性硬化症(MS)はその発症機序に中枢神経系の髄鞘に対する自己免疫が関与していると考えられているが,現在もなおその起炎抗原は不明である.髄鞘塩基性蛋白(MBP)誘導による実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)はMSの動物実験モデルとしてMSの病因解明に大きく貢献してきたが,MSの病理学的特徴である脱髄がみられないといった難点があった.さらにまたMSでは自己免疫を誘導する因子は不明であるが何らかのウイルス感染がその引き金になっているものと考えられている.この観点より感受性マウスにMSに酷似した脱髄性病変を引き起こすタイラー脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による免疫性脱髄疾患の動物実験モデル(TMEV-IDD)はMSの病因の解明及び治療の開発に非常に有用である.TMEV-IDDはこれまでの脱髄疾患モデルとされてきたMBPを用いたEAEに比べ,臨床的にも病理学的にもはるかにMSに酷似し,MSの病因解明に新たな飛躍をもたらした動物モデルである.本研究ではTMEV-IDDの発症機序を免疫分子生物学的に検討した.B7-1およびB7-2はT細胞の活性化に必要な補助シグナル分子である.我々はTMEV-IDDにおけるB7-1,B7-2の役割を検討した。B7-1に対するモノクローナル抗体を投与するとTMEV-IDDは有意に抑制されたが,B7-2に対するモノクローナル抗体を投与してもTMEV-IDDは抑制されなかった。抗B7-1モノクローナル抗体投与マウスでは脾細胞のtumor necrosis factor-α(TNF-α)産生細胞およびinterferon-γ(IFN-γ)産生細胞は有意に減少していた.以上よりTMEV-IDDにおいてはB7-1分子は発症に関与しており,抗B7-1モノクローナル抗体はMSの新しい有力な治療として用いられる可能性が見い出された.
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