研究概要 |
肥大型心筋症はきわめて多彩な病態を示す疾患で、長期経過中に劇的な変化を示す。今までに病因として少なくとも9種類以上のサルコメア蛋白の遺伝子異常が報告されており遺伝的不均一性に富む疾患である。本研究では家族性肥大型心筋症家系のうちで約15%でミスセンス変異が報告され、さらに予後が悪いとされている心筋トロポニンT遺伝子のミスセンス変異の検索を行い、臨床症状との関係を明らかにし、肥大型心筋症の早期発見、早期治療に役立てることを目的としている。 まず、肥大型心筋症家系の遺伝子変異の検索を行うため、患者およびその家族よりヘパリン加採血を行い、EBウィルスを使った細胞株化を行い、液体窒素に保存した。この保存されたリンパ球よりDNAを抽出し、特に現在までにトロポニンT遺伝子変異が報告されているExon8,9,10,11,14,15,16部をPCR-SSCP法により遺伝子変異の有無を検索した。 1昨年はArg92Trpの変異を持った1家系とLys253Argの変異を持った1家系を確認した。今年度はさらにPhe110Ileをもった1家系を確認した。 これら3家系およびβミオシン重鎖遺伝子異常Gly741Trpを持った家系を対象にKaplan-Meier分析による生存曲線を比較したところ、臨床症状が最も軽度と思われたArg92Trpの変異を持った家系が一番悪く、次いでβミオシン重鎖Gly741Trpを持った家系、そしてトロポニンTPhe110Ileの順であった。 一般的にトロポニンT遺伝子異常を持った家系は心室肥大は比較的軽度であるにもかかわらず、拡張相肥大型心筋症に移行する例がしばしばみられ予後が不良とされてきたが、本実験結果より、変異の位置により予後の良し悪しがあることが示唆される。
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