研究概要 |
網膜視神経の虚血や変性などの障害に対し、神経保護治療が新しい戦略として台頭してきた。我々は培養網膜ニューロンとミュラー細胞を用いて、グルタミン酸アゴニスト(NMDA, AMPA)曝露に対する既存薬物の予防的神経保護作用の有無を知り、その可能性有する場合はその機作を探る目的で、種々の実験を試みた。中でもカルシウムチャネルブロッカーであるジルチアゼムとドパミン前駆体であるL-dopa前投与の、グルタミン酸アゴニスト曝露による細胞死に対する影響を、TUNEL法、Comet法を含めた方法で詳しく調べた。この二つの薬物はNMDA, AMPA曝露のいずれに対しても神経細胞死を抑制した。L-dopaは10^<-4>M以上でおそらくNO産生により細胞死を促進した。これに対し、10^<-6>M以下では細胞死は起こさず、この低濃度で細胞死を抑制した。同じ傾向はミュラー細胞でもみられた。この細胞死抑制の機作について、ドパミン受容体を介した作用、NOを介した作用、さらに神経栄養因子、神経成長因子を介した作用について実験的、文献的に検討したところ、D1,D2ドパミン受容体を介した作用が主である可能性が示唆された。これらの受容体についての検討、とくに今回初めて網膜細胞で示された細胞内粒子運動の超高感度顕微鏡による解析でD1,D2ドパミン受容体が相反的挙動を示すことが示された。今後、D1,D2受容体を介した神経保護作用を臨床に応用するためにも、ドパミンの網膜細胞に対する保護作用はD1,D2個別に解析する必要がある。これに加え、網膜中心静脈閉塞を有した症例でカルシウムチャネルブロッカーを内服していた人としていない人とで、視力の経過に差異があるか、またL-dopaめ虚血性視神経症への応用例についてロービジョンエバリュエーター(LoVE)を用いたトライアル結果も報告した。前者は有意差はなかったが、発症1ヶ月目では内服例で非内服例より視力回復がよい傾向がみられた。また後者ではL-dopa投与中にはLoVEの値が有意に高値を示し、同薬に神経賦活作用があることが示唆された。
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