研究概要 |
ミュラー細胞は単に網膜の支持細胞としてだけでなく、多機能細胞として種種の場面で活躍する。一方、網膜ニューロンが正常な神経機能を果たすのにさまざまな神経伝達物質が作用している。ところが、ミュラー細胞にもグルタミン酸受容体が存在することを、我々は過去に示した。ミュラー細胞という非ニューロン(グリア)細胞に神経伝達物質受容体が存在する意義は何かを解くのが、この研究の目的である。グルタミン酸が網膜に過剰に存在すれば、神経細胞死が発生するが、この場合グルタミン酸受容体を有するミュラー細胞がどのような役割を果たすのであろうか。培養網膜ニューロンとミュラー細胞を用いて、過剰なグルタミン酸アゴニスト(NMDA at 2mM, AMPA at 5mM)曝露による細胞死に対する影響を、TUNEL法、Comet法で調べたところ、いずれも非曝露細胞に比して有意に陽性細胞が増加した。ニユーロンとミュラー細胞の生存率、細胞死率は平行し、両者は運命共同体と考えられた。 一方、神経伝達物質のうち、ドパミンが神経保護作用を有することが示唆されている。まず、培養ミュラー細胞のドパミンアゴニストに対する影響をみた。D1アゴニスト(R(+)-SKF-82957)投与時の細胞内カルシウム濃度測定実験から、10^<-6>から10^<-3>Mで濃度依存性にカルシウムイオン濃度上昇が生じ、同細胞にD1受容体が存在することが示された。また、超高感度顕微鏡による細胞内粒子運動の解析でD1アゴニストでは運動が抑制され、D2アゴニストでは促進されるという相反した挙動を示し、機能的ドパミンD1,D2受容体がミュラー細胞に存在することが示された。先述のグルタミン酸アゴニストによる培養網膜ニューロンの細胞死に対し、ドパミン前駆体であるL-dopa前投与の影響を調べると、10^<-6>M以下の低濃度で細胞死を抑制した。同じ傾向はミュラー細胞でもみられた。この細胞死抑制はD1,D2ドパミン受容体を介した可能性があるが、ミュラー細胞もこの機作に関与していることが考えられる。
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