研究概要 |
本研究では口腔癌を対象として多分割照射を行い治療成績の改善程度と後障害の発生頻度を明かにするとともに、その低減の可能性を明らかにすることを目的として臨床的検討を行った。1990年から1997年3月までに1日2回照射法で治療された口腔扁平上皮癌症例の内、根治照射を行なった73症例(T1,7例;T2,34例;T3,25例;T4,9例)を対象とした。放射線治療は一回線量1.2-1.4Gyで1日2回4-6時間の間隔を開け1週あたり5日間の照射で、線量は65.8-74.4Gyであった。化学療法併用例は52例あった。73例中17例は原発巣非制御で、9例で頚部リンパ節転移非制御、1例で遠隔転移により死亡した。同時重複食道癌により1例が死亡した。T別2年生存率はT1,82.4%;T2,79.5%;T3,35.7%;T4,56.8%で、治療終了時に15例の非制御例が確認された。局所再発は9例に見られ、うち7例は6ヶ月以内に生じた。T別の局所制御率は、T1,87%:T2,75%;T3,10%;T4,25%であった。T1およびT2症例中、61Gy以上照射された37例のうち21例で局所制御が得られた。しかし、T4症例では、70Gy以上照射された場合でも局所制御は得られなかった。非制御及び再発例に対する救済治療は18例で手術が行われ5例が救済された。組織内照射が2例で行われたが、いづれでも救済されなかった。晩期合併症として1例で病的骨折を生じ、他の6例では骨露出、さらに他の5例では歯肉退縮と歯槽骨の吸収が生じた。これら有歯顎での変化はすべて放射線骨障害初期変化としての歯根膜腔の拡大から始まった。当初これらの変化は照射野中心での線量が原因とみなされたが、線量分布の検討によって予定線量を越えた高線量が厚みの薄い前歯部領域に与えられたことによって生じたと考えられた。このことは口腔癌の多分割照射では対向二門照射ではなく、直交もしくは3門以上の多門照射が好ましいことを明かにした。
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