我々は、約100keVのエネルギを持った重陽子ビームを標的物質に照射しながら、重陽子融合反応から放出される反応陽子数の時間変化およびそのエネルギースプクトルを測定する事によって物質中に注入された重水素原子の拡散および深さ方向の重陽子分布を実時間で観察することのできる新しい測定方法を開発した。当初本年度新しく標的加熱装置を接続した真空槽を設計製作し、占有の測定装置(放射線検出器、測定回路系等)を完備する予定であったが、予算の都合上実験を効率よく遂行するため検出器および測定系の整備を行った。また現有の真空槽については、照射ビーム強度が標的上で一様になるようにビーム偏向系およびビーム照射中標的温度を一定に保つためターゲットホルダー系等の改良を行った。特に反応陽子の検出器として大容量のシリコン半導体検出器を導入することによって検出効率が上がり、低いビーム強度でも十分な計数が得られ、ビーム照射による標的の温度変化を最小に押さえることが可能となった。これらの結果については、1999年春および秋の日本原子力学会で報告した。今回測定系全体の整備ができたので、4月から物質中での注入重陽子の拡散の定量的な導出を図るため、標的物質の種類、結晶構造、温度等を変化させ系統的な測定を行う。また重陽子ビーム照射によって単結晶シリコン中で起こるフレーキング現象は、結晶中での重水素原子の挙動に深く関連したもので物性的な測定が不可欠である。今回初めて物性物理学者と協力してラマン分光法による重水素分子の測定を始めた。
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