研究概要 |
我々は、約100keVのエネルギを持った重陽子ビームを標的物質に照射しながら、重陽子融合反応から放出される反応陽子数の時間変化を測定する事によって物質中に注入された重水素原子の挙動を実時間で観察することのできる新しい測定方法を開発した。実験を効率よく遂行するため検出器系および測定系の整備を行った。特に反応陽子の検出器として大容量のシリコン半導体検出器を導入し検出の立体角を大きくすることによって検出効率が上がり、低いビーム強度(〜0.5μA)でも十分な計数が得られ、ビーム照射による標的の温度変化を最小に押さえることが可能となった。照射ビーム強度が標的上で一様になるようにビーム偏向系およびビーム照射中標的温度を一定に保つためターゲットホルダー系等の改良を行った。物質中での注入重陽子の挙動を調べるため次のようなパラメーターに対して測定を行った。(1)標的物質の種類(Al,Co,Ni,Cu,Pd,Au,Pt)(2)結晶構造、単結晶・多結晶の違い(Al,Cu,Mo,Pd,Ta)(3)温度変化(-5℃〜90℃)。特に金属元素の種類によって、単結晶と多結晶のあいだで反応陽子数の時間変化に著しい違いが観測された。例えば銅では単結晶と多結晶に差がまったく見られないが、タンタルでは単結晶と多結晶とで、注入重陽子の振る舞いがまったく違う。単結晶中では重陽子の拡散が異常に早いことを示しているのか、さらなる追試が必要と思われる。また反応陽子のエネルギーを精度良く測定することによって核反応の運動学から、注入重陽子の深さ方向に対する分布の情報が得られる。これらの測定量を合わせて注入重陽子拡散の挙動の解明を行う。
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