研究概要 |
一酸化窒素(NO)は,神経系において神経伝達物質様の生理機能を有している.私たちはこれまでに,NOの情報伝達機構として,[NOラジカル--グアニル酸シクラーゼ--サイクリックGMPを介した機構]のほかに,[NOラジカル--S-二トロソチオール生成--標的蛋白質のS-ニトロソ化を介した機構]が存在することを提唱してきた.平成11年度の研究であらたに以下の知見を得た.1)チオレドキシンレダクターゼの阻害薬は,神経細胞株であるPC12細胞においてアポトーシス促進キナーゼ(ASK)を活性化し,細胞死を引き起こした.2)S-ニトロソシステインも他のNOラジカル放出化合物も,アポトーシス実行酵素であるカスパーゼの活性化を抑制し,細胞死を防御した.3)アラキドン酸が,神経細胞株GH3細胞においてDNA断片化を伴うアポトーシスを促進した.4)MPP_+(ドパミン神経毒)がアラキドン酸産生酵素であるホスホリパーゼA2を活性化した.5)S-ニトロソシステインと培養した細胞ではホスホリパーゼA2活性化によるアラキドン酸産生が阻害されていたが,他のNOラジカル放出化合物は無効であった.これらの知見は,S-ニトロソシステインが,他のNO化合物と同様にNOラジカルを介して作用するとともに,他のNO化合物は示さない特有の生理機能を有していることを示している.これまでに私たちは,NO化合物のうちS-二トロソシステインだけが,ノルアドレナリン放出作用やリアノジンレセプターのS-ニトロソ化作用を示すことを報告しており,今回得られた結果と一致してS-二トソロシステインの神経系における特異性を示している.
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