研究課題
基盤研究(B)
中国全土に残る農村儀礼中の「儺戯」は、中国演劇史のみならず中国文化を考える上で大変重要な意味をもつが、従来の中国学においては都市部に展開した楽曲系演劇とそのレーゼドラマが扱われ、王国維による近代的研究を経ても明確な研究対象とはならなかった。それは、農村において、民間儀礼・儀式、民間宗教と不可分の形で展開していたため、歴代文人や研究者が看過しがちであったことによるだろう。1980年代より台湾『民俗曲芸』をはじめとする多くのフイールドワークによって豊富な報告が成されるとともに、毎年国際学会が開かれる研究領域に発展した。「追儺行事の生きた化石」として民俗学的に有効な資料であるのみならず、演劇の発生を考察する上でも大きな問題を含むことは、『中国演劇史』他の田仲一成氏による問題提起に明らかである。本研究では、中国西南という歴代政権にとって辺境にあたる地区に注目し、明代に中央より派遣された軍隊の駐屯部落に残った演劇的側面の強い「安順地戯」と、周辺に分布する儀礼的側面の強い「儺戯」について、担当者が繰り返し足をはこび素材をより深く分析することで、新たな着想への基礎を作ることが出来たと考える。研究期間を通じて四川省においては主に細井が地元端公に三回にわたる聞き取り調査を行い、演劇博物館企画展示においてその面具・木偶の全貌を公開しつつ多くの研究者と意見を求めた。黔北地区については伊藤・橋本・稲葉がメイ潭・遵義などを調査し、メイ潭儺戯研究会といった地元研究者と活発な議論を交わした。海外共同研究者の貴州民族学院は新たな調査地として黔北地区の道真を中心に儀式儀礼に用いる文書・道具を調査した。安順地区については稲葉が独自の視点から各地を調査した。本報告書では、細井が四川省端公について、稲葉が安順地区の説唱芸能の層状の重なりについて詳細に報告する。
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