研究概要 |
平成11年には,研究計画に従い,実験状況で混合動機ゲームの利得構造をどのように提示するかが,被験者の状況認知にどのような影響をもつものかを調べることを目的とするビニエットの形式の実験(第一実験)および,実際に被験者を2人ずつペアにして囚人のジレンマを行う実験室実験(第二実験)を行った.第一実験では,ゲームの利得構造を社会的交換として理解し易い形に分解することにより,人々が主観的利得構造変換し,囚人のジレンマの利得構造を信頼ゲームとして捉えるであろうという当初の仮説は支持されなかった.しかし,分解型ゲームではなく,社会的交換を示唆する実験教示と社会的交換を示唆しない実験教示を用いて人々の主観的利得構造変換の程度を比較した第二実験では,利得構造の表現が主観的利得構造変換に及ぼす影響に関する仮説が支持された.平成11年度にはさらに,遠隔地にいる被験者をネットワークで繋ぐ方法により,実験教示ではなく実験状況そのものを社会的交換状況に近づけた実験(第三実験)を行った.この実験でも,単に相互依存状況にある相手の存在が理解されるだけでなく,実際の交換状況に直面することにより,自分のみならず相手も同様に互恵的に振舞うであろうという期待をもつようになることが示された.これら一連の実験により,人々が実際には非協力が得である囚人のジレンマの利得構造を,「互いに協力し合うべき社会関係である」と認知するか否かには,状況を社会的交換場面として捉えるかどうかが大きく影響していることが明らかにされた.
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