タンザニア産コーヒー豆の生産者価格が低迷している国内の原因は、前年度に明らかにした通りであるが、さらに根本的な原因として、貿易価格の形成制度を挙げることができる。同豆の貿易価格は、ニューヨーク先物期近価格(世界のアラビカ豆の平均価格)を基準とし、当該豆の品質や供給量、そして輸出入業者間の力関係に沿った割増・割引を行い設定される。この価格形成制度の下では、民間生産者価格も組合生産者価格も同様に、同先物価格に頭打ちされる。それが上限である限り、たとえ構造調整政策で買付競争を促し、民間業者間の競争が実現したとしても、大きな価格上昇には至らないのである。さらに同豆は、世界のアラビカ豆貿易量の0.9%のシェアに甘んじており、その供給量が先物価格や貿易価格に反映しない。つまり同豆の貿易価格の水準は、世界のアラビカ豆貿易量の30.8%を占めるブラジル、21.1%を占めるコロンビアの生産量によって決まるのである。 それゆえタンザニア産コーヒー豆の生産者価格の引き上げのためには、上記の支配的経路とは別の、新しい流通経路・価格形成制度を創出する必要がある。既にその試み(オルタナティブ・トレード(もう1つの貿易・AT)、フェア・トレード(公正貿易))が、先進国NGOの主導で始まっており、日本においても、キリマンジャロ原住民協同組合連合会からオルター・トレード・ジャパン社が購入するAT経路が、確立されている。しかしながら、タンザニア産豆の総輸入数量に占めるATの割合は、96年0.58%、98年0.21%に過ぎず、現時点における生産者価格引き上げへの貢献は、ささいなものに過ぎない。今後のATの成功は、日本人消費者(特にATの顧客)が求め始めた無農薬有機栽培のコーヒー豆を、タンザニア小農民が生産できるか否かに依存している。
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