人工的に任意のキメラ植物を作出することは、多くの研究者の夢であるが、現在までに人工キメラの作出法は開発されていない。本実験では、人工キメラを作出する方法として生長点の微細手術を検討している。これまでの実験から以下のことが生長点手術を困難にしている原因として考えられた。 (1)肉眼で観察できるような手術は、生長点に大きなダメージを与える。 (2)大きな傷を与えた生長点は傷を修復させることなく、無傷部より新たな生長点を形成する。 (3)異種細胞間の接着が難しい(微細手術では隙間なく細胞を接着させることが難しい)。 (4)生長点に移植する異種細胞は大きさの点から、生長点由来のものが望ましい。 以上の点を解決する方法として、二種の生長点をセルラーゼやペクチナーゼで処理し、生長点の細胞間接着をゆるめた状態で手術ができれば良いのではないかと考えられた。そこでユリの生長点を用い酵素処理を行ったところ、生長点が軟化し生長点からの細胞の掻き取りおよび異種細胞の埋め込みが容易にできるようになった。特に異種細胞の埋め込みに関してはペ一スト状の細胞塊で破壊部を隙間なく埋めることができた。さらに本法で軟化させた生長点はTTC還元活性が見られ、培養しても正常に葉原基を分化するなど、特に問題は見られていない。 現在この方法でユリの生長点を処理、培養を行っている。経時的な切片の観察を行い細胞の接着と手術経過を観察していく予定である。 また、花弁にキメラ斑を有するセントポーリアを培養し、培養植物体の変異を調査したところ、多くの変異体が出現した。キメラ斑を有する植物体を大量増殖する系を確立することは、作出した人エキメラを大量増殖することにもつながるものである。
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