研究課題/領域番号 |
11J00122
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
野原 将揮 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 上古音 / 声母 / T-type / L-type / 通仮 / 楚簡 / 〓東語 / 福鼎店下方言 |
研究概要 |
平成23年度は主に上古漢語の声母について、出土資料に現れる通仮字(当て字の用法)の研究を通して再構を試みた。たとえば「仇」と「讎」について、多くの研究者がこれら2字に牙喉音声母(軟口蓋破裂音)を再構している。これは恐らく『説文解字』で「仇,讎也」という説解が見られることに起因すると考えられる。「仇」は戦国竹簡でも「求」を声符に持つ字と通仮関係にあり上古漢語に牙喉音声母(軟口蓋破裂音)が再構される。ところが「讎」は戦国竹簡でT-type(上古漢語で*t-)の「壽」を声符に持つ字と通仮関係にあることから(戦国中期~後期には)牙喉音声母ではなくT-typeに由来すると推定される。このようにより精密に文字毎の再構を進めることが可能となった。また本年度は書母の由来についても考察を加えた。書母は中古では/s-/に再構されるが、上古漢語では幾つかの声母に由来するとされる。本研究では譜声系列を基礎として上古漢語の書母をT-type書母、L-type書母、N-type書母、X-type書母、由来不明の書母(更に譜声関係を有する書母と有しない書母の2類に分類)の5つのタイプに分類し、それぞれ戦国竹簡でどのような振舞いを見せるか考察を加えた。従来、再構不可能であった文字については類推等に頼らざるを得なかったが、出土資料を扱うことでこれら由来不明の書母についても再構することが可能となった。 また出土資料のみでは上古漢語を再構することはできない。実際に音価再構を進めるためには中国諸方言の研究等を要する。特に〓語は中古漢語よりも古い音体系を保存しているとされ、実際の音価推定に〓語の研究は欠かせない。本年度は福建省寧徳市福鼎市店下鎮に赴き、約2週間現地でフィールドワークを行い〓東語店下方言の基礎的な字音調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、出土資料の膨大な発見・公開が進み全ての竹簡を分析するには多大な時間を要するため部分的にやや遅れている点も有るが、おおむね順調と言って良い。方言調査については順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度と同様の手法で研究を進める予定である。新たな資料の公開も進んでいるため新資料も利用する。また方言調査に関しては語彙調査、例文調査を進める。
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