研究概要 |
前年度は日本語,中国語それぞれの言語内での可能表現の類似形式の比較が中心であったが,本年度は言語間の対照に着手するとともに,難易表現に関する研究を行った。具体的には以下の2点を明らかにした。1、能力主体を「ニ」で標示する日本語の「『ニ』標示可能文」と,中国語で助動詞"会"を用いて表す「"会"可能文」の比較を行った。この2つの可能文が、(1)状況可能を表せない,(2)行為のあり様を具体化する副詞類と共起しない,(3)無情物を主語にとれない,という共通の特徴を持つことを明らかにした。さらに行為主体としての主語を背景化し,能力主体としての主語を前景化した「能力主体指向の可能表現」という可能表現の一つの類型的意味を提案し,このような概念を導入することで,上記の事実が統一的に説明できることを示した。2、難易表現に隣接する形式として「傾向」の意味を表すとされる「-がちだ」をとりあげ,「-やすい」との比較を行った。考察の結果,両形式の異同は傾向判断に至る認知過程の違いによって説明されることがわかった。具体的には,「-やすい」は事態の進展に関わる情報からの推論によって導き出される傾向を表し,「-がちだ」は事態の存在の数え上げによって導き出される傾向を表す。この違いは前年度の研究成果や1、の研究成果にあるような,「認知対象の中で何が注目されるか」 という観点だけではなく,「話者のどのような認知行動によって属性が導き出されるか」という観点が,「事態をどのように捉え属性表現として言語化するのか」を明らかにする上で重要になるということを示すものである。以上の内容は,それぞれ日本言語学会144回大会と関西言語学会第37回大会において口頭発表を行った。
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