研究課題/領域番号 |
11J02696
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
須藤 正彬 京都大学, 大学院・農学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ダニ / 食う食われるの関係 / 紫外線 / カブリダニ / ヒメハダニ / 重力 / 葉面微細構造 / 産卵場所選択 |
研究概要 |
平成23年度の研究実施にあたり「ダニの葉内分布および捕食圧を決定する環境要因」および「植物ダニの紫外線耐性」に関する2点を目標として定めた。(1)「ダニの葉内分布および捕食圧を決定する環境要因」について、葉の上下面(表裏)の間で光環境が中立な場合でも、植物ダニの群集を構成する各構成種の空間分布や被食者-捕食者の相互作用は、各葉面の表面構造や、位置関係(上下)そのものによる影響を受けると予想された。レンプクソウ科の落葉低木であるコバノガマズミ、植食者のチャノヒメハダニ、そして捕食者であるケブトカブリダニの系においては、リーフディスクを用いて捕食実験を行うと、毛が密な葉裏において葉表よりもヒメハダニ卵の被食率は低い。しかし野外コバノガマズミ葉上で観察されるヒメハダニ卵の表裏分布比は、成虫のそれよりも有意に葉表へ偏っている。 本研究により、葉の表裏の微細構造(毛の有無)に加え、上面と下面では方向の異なる重力が、捕食者の分布や行動を変化させ、被食リスクに影響をもたらすことが示された。ケブトカブリダニはコバノガマズミの(構造上の)葉裏および(重力についての)下面を好んで分布し、葉表および上面を好むチャノヒメハダニとの間に葉面分布の不一致が観察された。この分布の違いにより、ヒメハダニ卵の被食リスクは葉の下面よりも上面において軽減された。また(2)「植物ダニの紫外線耐性」について、葉の上面を産卵場所として利用するチャノヒメハダニの卵が、葉裏のみに産卵する植食者であるナミハダニ(ハダニ科)よりも約4倍高い紫外線耐性を有することが示された。毛が少ないため、一見すると捕食回避効果が薄い葉表に、ヒメハダニが卵を産み付ける理由として、捕食者であるカブリダニが葉表をあまり利用しないため被食リスクが軽減されること、なおかつ卵が太陽光紫外線に耐えうることが、それに寄与している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物葉の表裏における物理環境、とりわけ葉面の微細立体構造および上下面における重力方向の違いが、植物ダニの被食者-捕食者相互作用にもたらす影響については、先行研究において為されていなかった複合的な観点からの評価を進めるに至った。一方、太陽光紫外線が植食性ダニの卵の発育ないし生死に与える影響について、ダニに関する先行研究では知られていなかった諸要素、とりわけ紫外線の有害作用における卵齢依存性、および発育遅延を考慮する必要性が認められた。そこで当初の計画を一部修正し、これらの要因を評価するための予備実験を、年度後半に実施した。
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今後の研究の推進方策 |
ダニ成虫(捕食者)の葉面選択に対して光が与える影響については引き続き、主として室内系を用いた操作実験により評価を行う。太陽光紫外線がダニ卵に及ぼす影響については、卵の発育段階に応じて異なる致死・発育遅延効果を加味した上で、卵期通算のリスク評価を行い、春~秋の各季節における寄主葉上面での孵化成功率・孵化所要日数についてのシミュレーションを行う。
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