研究概要 |
自然界には何万もの生理活性テルペノイドが存在する。これらの生産活性がいかにして生まれたかを知ること,そして多様なテルペン骨格の合成活性を開発することが,本研究の目的である。申請者は,テルペン酵素の細胞活性を,共通するイソプレニル二リン酸を基質とするカロテノイド色素経路の生産量低下によって可視化する手法を開発した。本研究では,この手法を用いて,ひとつのテルペン酵素から多様なテルペン活性をつくり出すことを目指した。本年度は,タバコ由来の5-エピーアリストロケン合成酵素(TEAS)の実験室内進化を行い,基質および生産物特異性の異なる変異体を取得した。 まず,TEAS遺伝子にランダム変異を導入したライブラリを作製し,"基質消費スクリーニング"を行い,よりカロテノイド色素が蓄積しない変異を探索した。選択した変異体の多くが遺伝子のN末端付近に変異を有しており,SD配列付近の二次構造の解消により翻訳効率が上昇したものだと示唆された。一方で,7個の変異はN末端付近に変異をもたず,これらは蛋白質内のアミノ酸置換により活性が向上したものだと考えられる。中でもより消費活性の強い表現型を示したL399SおよびQ481R変異が最も活性を上げる変異だと考えている。 これらの変異体を大腸菌細胞に形質転換し,その培養液から抽出した脂溶性画分をGC-FDSで解析してTEAS変異体の生産するテルペンを分析した。まず,TEAS野生型は大腸菌内でセスキテルペンである5-エピーアリストロケンだけでなくモノテルペンであるリナロール等を合成した。ここで,TEASのL399S変異体およびQ481R変異体を同様にして分析したところ,TEAS野生型に比べ多くのモノテルペンの合成が確認された。このように,生産物を限定しない"基質特異性スクリーニング"によって,基質および生産物特異性が変化したTEAS変異体を取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
3年度では更なる実験室内進化を行い,テルペン酵素に変異を蓄積させてさらなる表現型の多様化を狙う。また,そこで得られた酵素変異体の生化学解析およびシーケンス解析を行い,反応特異性に影響しうるアミノ酸残基の特定を試みる。ここで特定されたアミノ酸残基("可塑性残基")について,構造安定性への影響やランダム変異への耐性許容度などを評価する。
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