ステロイドホルモン等の脂溶性生理活性物質はそれぞれの標的器官の細胞内に存在する特異的なレセプターを介して、その作用を発揮する。これらのレセプターは、それ自身がDNA結合性の転写調節因子であり、それぞれのリガンド刺激に応じて標的遺伝子の発現を転写レベルで調節する。ここ数年の研究により、これら核内レセプターのリガンド依存的な転写活性化には、コアクチベーターと呼ばれるタンパク質群が関わっていることが明らかとなってきた。これまでに、コアクチベーターと思われるタンパク質は多数クローニングされているが、細胞内に普遍的に存在するため、その機能の解析が難しかった。そこで、我々は、ニワトリBリンパ細胞株DT40の遺伝子ノックアウトの系を用い、ヒストンアセチル化酵素活性(HAT)を持つ3種のコアクチベーター(TIF2、SRC1、ACTR)のノックアウト細胞の作成を行い、その性状の解析を行った。 ノックアウト細胞の作成にニワトリ由来の細胞を使用するため、最初に、TIF2、SRC1、ACTRのニワトリホモログのクローニングを行った。これらのコアクチベーターは鳥類においても高度に保存されており、核内レセプターと相互作用する領域やHATドメインが存在することが分かった。このcDNA配列をもとにプライマーを設計し、ゲノムDNAをPCRにより増幅し、PASドメインをコードする領域を薬剤耐性遺伝子に置換した。こうして作成したノックアウトコンストラクトをDT40細胞に導入することにより、TIF2とACTRのノックアウト細胞及びTIF2とSRC-1のダブルノックアウト細胞株を樹立した。その結果、TIF2のノックアウトによりエストロゲンやグルココルチコイド等のステロイドホルモンによる転写活性化は大きく影響を受けるが、ビタミンAやDなどの非ステロイド系の情報伝達への影響は小さいこと、ACTRやSRC-1の核内レセプターの転写活性化に対する寄与は小さいこと等を明らかにした。
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