研究概要 |
グラム陰性細菌のリポ多糖は様々な生物活性を示し、その活性中心はリピドAと称される糖脂質である。本研究では、ヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)を対象として、リピドAの構造多様性と変化について系統的に検討した。すなわち、継代培養という時間軸をも考慮に入れながら、様々な病態の患者からの臨床分離株ならびに標準株のピロリ菌からリピドAを迅速に分離精製して構造解析を行った。また単離したリピドAの免疫生物活性をヒト抹消血細胞を用いて調べた。さらに、それぞれの菌株の感染性についてもマウス胃壁への吸着性を調べ評価した。 昨年度までに確立した迅速なスクリーニングの系を用いて、約40種の菌体を調べた。その結果、4種の異なる構造のリピドAが確認されたが、それ以上の多様性は見られなかった。固形培地を用いて継代培養を続けると、構造が変化していくことが昨年度確認されていたが、今まで容易でなかった液体培養の系を本年度確立させて検討した結果、構造の多様性は観測されず、菌株の違いに依らず2種の構造だけが検出された。この液体培養を嫌気性の条件で行い、coccoidの形態を示す菌株を作り出して検討を加えたが、やはり構造の変化は観測されなかった。ピロリ菌の形態が変化する速度に比べて、リピドAの構造が変化する速度が遅く、数代という時間的な要因が必要であることを示唆しており、今後構造の変化に対応する遺伝子の組み替えやスイッチングの関与を調べていきたい。 精製した2種のリピドAについてサイトカイン誘導活性を調べた。IL-6,IL-12,IFNγ,TNFαに関しては、いずれもほとんど活性を示さなかった。しかしIL-18は、いずれもかなり高いレベルの活性が認められ、その活性は別途調整した合成品とも同等であった。ウエスタンブロティング法によって、誘導されたIL-18は活性型であることを確認した。さらにこのIL-18誘導活性はCaspase-1に対する阻害剤を加えることによって完全に抑制された。以上の結果は、ピロリ菌のリピドAがMyD88を介して炎症性サイトカインの誘導をおこす活性化機構の1つにはほとんど作用せず、直接Caspase-1に働きimmatureなIL-18を活性型に誘導するという経路のみに作用したという可能性を示唆しており、今後の自然免疫の研究に有効なツールとなるであろう。
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