研究課題
本年度も、研究会形式で行われる研究分担者の研究報告を中核に置き、それと並行して文献資料の収集を行った。五回開催した研究会では、合計七本の研究が披露された。その主題を列挙すると、新体詩、大西祝、夏目漱石、西田幾多郎、雑誌『趣味』、岡倉天心、大塚保治であり、狭義の美学にとどまらず、哲学、文学、美術、文化思想へと広がりをもった内容となった。研究会においては、昨年度までの研究諸成果を踏まえた質問が飛び交い、質疑応答を通じてさまざまな事象の思想的な関連や対比がより深く緻密に把握されるようになった。このような研究会の継続によって次第に明らかになりつつあるのは、研究対象として取り上げる人物や諸概念が持っている、これまではっきりとは見えてこなかった新たな側面であり、また、それぞれの思想家や対象(新体詩と『趣味』)がその歴史的状況のなかでもっていた生き生きとした意味合いである。その一端を記せば、国民詩の創出という課題を掲げて登場した「新体詩」がついには「新体」詩という限定を脱し得なかった経緯、漱石が性格学に寄せた関心、テイストとホビーの間を揺れ動いた「趣味」概念の推移、後期の大塚保治が取り組んだ類型論の試みなどが、史的コンテクストに即して具体的に検討された。これら諸研究を集約する努力を継続してゆく先に、日本の近代美学の成立と展開に対する従来の理解を一新させるような新鮮な風景が遠望される段階へと至りつつある。また、研究会とは別に、公開の講演会を開催した。『子規』を公刊し、「写生」の歌人・俳人の仕事の深層を照射した歌人の玉城徹氏をお招きした。『近代における短歌の思想』という題で自身の創作活動も背景にして展開された興味深い話は、聴衆に感銘を与えた。
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