研究課題
最終年度となる本年度も、研究会形式で行われる研究分担者の報告を中核に置き、それと並行して文献資料の収集を行った。五回開催した研院会では、計九本の研究が披露された。その主題を列挙すると、「俚謡」と「民謡」論、明治・大正期の「美術」観、ケーベル、阿部次郎、和辻哲郎、九鬼周造、西田幾多郎、志賀重昂、フェノロサであり、狭義の美学にとどまらず、哲学、文学、美術、音楽学、文化思想への広がりをもった内容となった。各研究会においては、昨年度までの諸成果を踏まえた質問が積極的に飛び交い、議論を通じて様々な事象の思想的な関連や対比が、より深く緻密に把握されるようになった。また、諸報告によって最終的に明らかとなったのは、研究対象として取り上げる人物や諸概念がもっている、これまではっきりとは見えていなかった新たな側面、および各々の思想家や対象がその歴史的状況の中でもっていた生き生きとした意味合いである。一端を記せば、湯朝竹山人による「俚謡」表象とその文化的背景、阿部次郎や和辻哲郎が「人格主義」に寄せた関心(および彼らの思想的限界)、九鬼周造の『文学概論』における「文学」概念の射程、西田幾多郎の著作に認められるプロティノスやゲーテとの思想的関連、志賀重昂の『日本風景論』に見られる科学的枠組みによる風景美の再編制(および当時のナショナリズムや皇国史観との関連)などが、史的コンテクストに即して具体的に検討された。以上の諸研究を集約する努力を積み重ねた結果、明治・大正期における日本の近代美学の成立と展開に対する従来の理解を一新させるような新鮮な風景が展望し得る段階へと到達した。そしてその最終的な成果は、現在編集中の報告書に掲載される研究分担者の論文に着実に反映されている。
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