脳と免疫系の相互反応とその老化に伴う変化に関する実験病理学的研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12307006
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 廣川 勝いく 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 教授 (00014093)
• 研究分担者: 北川 昌伸 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 助教授 (10177834) ; 池田 通 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 講師 (00211029) ; 宇津山 正典 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 助手 (70167287)
• キーワード: 脳 / 免疫系 / Glia Maturation Factor β / 胸腺 / T細胞分化

研究概要

免疫系と脳には共通の伝達物質とその受容体が多数ある。例えば神経伝達物質であるアドレナリンの受容体はリンパ球にも発現し、免疫系の中でも機能する。また、免疫系の伝達物質である各種のサイトカインも、それらの受容体が神経系の細胞に発現し、神経系の中でも機能する。
本研究の最終年度には、脳の中でグリアの成長に重要な働きをするGlia Maturation Factor β (GMFβ)が胸腺の胸腺上皮に発現し、T細胞分化に重要な働きを果たす事を明らかにした。
骨髄由来のT細胞前駆細胞は胸腺に移住した後、胸腺上皮の発現する様々な分子との間で相互反応を起こし、増殖・分化し、ある程度成熟してから末梢リンパ組織に移住し、免疫系の細胞として重要な働きを果たす。T細胞の胸腺内における分化の段階はかなり明らかになったが、その各段階で作用する胸腺上皮側の分子についてはまだ不明な部分が多い。
胸腺上皮細胞の発現する分子の中で、T細胞分化に関わるものを明らかにする目的で、まず、胸腺上皮細胞に対する単クローン抗体を多数作成した。その単クローン抗体をin vitroのマウス胎仔胸腺器官培養系に加え、T細胞分化に影響を及ぼす単クローン抗体を選別した。胎仔胸腺よりcDNAライブラリーを作成し、T細胞分化に影響を及ぼす単クローン抗体の分子を同定したところ、その中に脳グリアの成熟に関連するGMFβが見つかった。
mRNA発現で見ると、GMFβは脳と胸腺に見られ、胸腺では新生時期を過ぎると発現程度が低下する。リコンビナント蛋白を作成し、マウス胎仔胸腺器官培養系に加えると、T細胞分化が大きく影響され、CD4^+T細胞の有意に増加することが分かった。それはIL-7の添加により、CD8^+T細胞が増加するのと対照的な作用であった。
今回の研究により、脳でグリア細胞の成熟に関与するGMFβが胸腺上皮でも作られ、T細胞分化に作用することが分かった。このことから、脳と免疫系で共通に働く新しい物質が同定され、脳と免疫系の相同性があらためて確認された。

研究成果

• [文献書誌] Utsuyama M, Hirokawa K, et al.: "Glia maturation factor produced by thymic epithelial cells plays a role in T cell differentiation in the thymic microenvironment"Int Immunol. 15. 557-564 (2003)
• [文献書誌] Fujisaki C, Hirokawa K, et al.: "An immnosuppressive drug, cyclosporine-A acts like anti-depressant for rats under unpredictable chronic stress"Med Dent Sci. 50. 93-100 (2003)
• [文献書誌] Utsuyama M, Hirokawa K: "Radiation-induced-thymic lymphoma occurs in young, but not in old mice"Exp Mol Pathol. 74. 319-325 (2003)
• [文献書誌] Takahashi K, Hirokawa K, et al.: "Expression of Foxp2, a gene involved in speech and language, in the developing and adult striatum"J Neurosci Res. 73. 61-72 (2003)
• [文献書誌] Shiraishi J, Hirokawa K, et al.: "Essential microenvironment for thymopoiesis is preserved in human adult and aged thymus"Clin Dev Immunol. 10. 53-59 (2003)
• [文献書誌] Ikeda T, Hirokawa K, et al.: "Multimerization of the receptor activator of nuclear factor-kappaB ligand (RANKL) isoforms and regulation of osteoclastogenesis"J Biol Chem. 278. 47217-47222 (2003)