研究概要 |
本研究は,いくつかの凸な物体による散乱の研究において,古典力学と波動力学の間の関連を調べることが中心的課題であった.この問題の重要性は,物体の数が3以上であるとカオス的となることにあり,これまで僅かの研究を見るのみであった. 我々は,まずその古典軌道にたいするゼータ関数の大域的に解析接続の可能性,かつ解析接続したところにおける極の存在,非存在の情報を如何にして得るかを研究した. ゼータ関数の性質を出来るだけ具体的に記述することを目指し,まず物体が3個の場合で,第3番目の物体が他の2つに比して小さい場合を取り上げた.そのためには,2個の物体に対する古典軌道の反射の回数が増していく場合の軌道の漸近的挙動を極めて正確に記述することが肝要であり,それに取り組んだが,新しい手法を用いて,精密に漸近挙動を記述することに成功した.これを基に軌道全体に第3番目の物体で反射する回数を媒介変数として総和のとり方を整理しなおすと,新しい形の表示式を得ることが出来る.これは解析接続の具体形を与えるものであり,この表現式は振動数が高くないところでは,極の場所を与えるものである. しかし,カオス的な現象が起こる領域においては,この表現式の有効性はまだ確かめれていない.これを確かめるには,更なる解析が必要であるごとく思われ,今研究は今後の大切な課題である. 2つの物体に対する古典軌道の精密な表示式から得られた成果のもう一つは,波動の散乱においてLax-Phillips予想を調べる手順として有効であるポワッソンの跡公式に適用する事である.論証の中心部分である行列的跡の下からの評価を上の場合に得ることが出来る事がわかった.これは従来の結果を大幅に改良するものである.
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