研究概要 |
Thioplocaは糸状性硫黄酸化細菌で、数本から数十の糸状体の束を形成し、滑走運動能を有する。この微生物は形態学的にBeggiatoaと近似しているが、束状糸状体が共通の鞘でおおわれているいる点が異なる。それらの生育場所は。これまで限られた場所にのみ報告され、チリ沖や中央ヨーロッパなどの海洋堆積物での記載がある。淡水環境においては、コンスタンツ湖、バイカル湖など数カ所のみで記載されているに留まっている。近年、琵琶湖北湖堆積物でもThioplocaが発見され(Nishino,Fukui and Nakajima,1998)、その生態学的役割が注目される。1900年代初頭にThioplocaが最初に発見して以来、その単離が試みられてきたが、未だに成功例がない。したがって、Thioplocaの生理学的特徴に関する情報は限られている。16S rRNAの塩基配列をもとに、海洋性Thioplocaの系統学的関係が解明されているが(Teske et al.,1995)、淡水種に関しては未だ行われていない。そこで、本研究では琵琶湖産Thioplocaの系統的位置関係を類推するため、特異的PCRプライマーを用いたDGGE法によりThioploca由来16Sr DNAを単離し、その塩基配列を決定した。 琵琶湖北湖の早崎沖水深90m付近の堆積物をコアサンプラーで採取し、実験室に持ち帰り、ピンセットを用いて鞘を含むThioplocaを取り出した。そのThioplocaをろ過湖水で緩やかに洗浄した後、軟寒天中で鞘から糸状体を引き出した。その糸状体をバッファーで洗浄し、Thioploca特異的プライマーを用いて16SrDNAを増幅した。増幅産物をDGGEで泳動し、Thioploca由来フラグメントを単離し、その塩基配列を決定した。 琵琶湖産Thioploca糸状体の直径は約4μmでチリ沖産T.chileae(12-20μm)やT.araucae(30-43μm)に比べて小さく、デンマーク産T.ingrica(2.0-4.5μm)に近かった。得られた試料からThioploca特異的プライマーを用いることにより、単一のDGGEバンドを得ることができた。決定した塩基配列の比較から、琵琶湖産Thioplocaは系統的にT.ingricaと近縁であることが推定された。チリ沖産Thioplocaの鞘上には糸状性硫酸還元菌Desulfonemaが密に付着して存在することが知られており(Fukui et al.,1999)、琵琶湖堆積物においても硫黄をめぐるThioplocaと硫酸還元菌との相互作用が注目される。
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