研究概要 |
当該研究課題の最終年度にあたる平成14年度の研究では,水質の違いとしてpHの違いに着目し,これがカルシウムイオンの溶出に及ぼす影響について検討を行った。また,長期間の供用によりカルシウムの溶出が生じているコンクリート構造物から試料を採取し,その物性を把握するとともに,カルシウムの溶出による塩化物イオン浸透抵抗性の変化について検討を行った。 1.pHの違いがカルシウムの溶出によるコンクリートの物性変化に及ぼす影響 セメントペーストによる薄片供試体にpHの異なる水溶液(模擬酸性雨)を作用させた場合の,硬化体内部の水和物量ならびに曲げ強度試験の結果およびこれらの関連性を検討した。その結果,淡水中でのモルタルおよびコンクリートの水和物量の変化と同様に,模擬酸性雨が作用したセメント硬化体中の水和物は,AFm, Ca(OH)_2およびCSHの順に減少してゆくことを明らかにし,Ca(OH)_2の消失する時点でのCSH残留量は曝露溶液のpHによって異なることが判明した。また,模擬酸性雨が作用したセメントペースト硬化体中は,水和物の減少にともなって曲げ強度が低下すること,およびCa(OH)_2が消失しても硬化体の曲げ強度はある程度は残留するが,CSHが残留していても曲げ強度が得られなくなるほど硬化体が軟化する場合があることを明らかにした。 2.実構造物におけるカルシウムの溶出状況と塩化物イオン浸透抵抗性の変化 長期間を経たコンクリート構造物からの溶脱について,Ca(OH)_2,CSHおよびAFmなどの水和物の減少程度にはある一定の関係性があり,空隙量の増加程度にも相関性が見出された。また,コンクリートの塩化物イオン浸透抵抗性と溶脱の程度との関連性について考察した結果,溶脱によるコンクリート微細組織の電気的性質の変化が,コンクリートの塩化物イオン浸透抵抗性に関与している可能性があることが判明した。
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