研究概要 |
本研究は自閉症児の呼んでも振り向かない、人の話声に興味を示さないという行動特徴並びに愛着関係や共同注意が養育者との間であっても成立しにくいという特徴の背景に、聴覚の統合機能(入力情報と記憶の比較照合過程)の障害があることを想定し、ミスマッチネガティビティ(以下MMN)により学齢期の自閉症児の聴覚的な文脈感受性、言語音の感受性の特徴を検討し、その仮説の当否を明らかにしようとするものである。 研究計画初年度たる今年度はまず、予備実験をふまえて刺激系列を作成し、記録手続きを確定することをめざした。刺激系列は、言語音に対する感受性を見るための言語音系列(母音)、非言語音系列(複合音)、純音系列、の3系列をヘルシンキ工科大学Paavo Alku教授の協力のもと作成することができた。この刺激により東京都武蔵野市内の9歳から14歳の自閉症児19名並びに同年令範囲の健常児11名の事象関連電位(ERP)記録を行った。記録部位は左右前頭部、中心部の4部位で乳様突起を基準とする単極導出であった。その結果学齢後半期の高機能自閉症児ではMMN,P300が健常児同様明瞭に記録しうることを確認できた。すなわちP300の低振幅を報告してきた従来の報告とは異なる結果であった。また左右差も有意差は認められなかった。本研究の結果は学齢後半期の自閉症群には言語音を含め、音の受容から比較照合、さらには受動的注意喚起までの処理過程には問題がないことを示唆した。
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