研究概要 |
本研究は自閉症児の呼んでも振り向かない、人の話声に興味を示さないという行動特徴並びに愛着関係や共同注意が養育者との間であっても成立しにくいという特徴の背景に、聴覚の統合機能(入力情報と記憶の比較照合過程)の障害があることを想定し、ミスマッチネガティビティ(以下MMN)により学齢期の自閉症児の聴覚的な文脈感受性、言語音の感受性の特徴を検討し、その仮説の当否を明らかにしようとするものである。計画初年度の昨年は無音ビデオ鑑賞中の音刺激(言語・非言語音)に対するミスマッチネガティビティ(MMN)並びにP3aを記録し、入ってくる音のずれを無意識のうちに検出する受動的注意過程の分析を行った。その結果学齢後半の自閉症児ではMMNもP3aも健常児との間に差がなく、言語音の受容から比較照合までの処理過程には問題がないことが示された。 そこで今年度は注意過程のどの段階に問題が所在するかを明らかにすることを目的として、7歳から15歳の自閉症児14名及び11歳から13歳の健常児13例を対象として日本語にもあるe,u,o(明瞭音:標準音と標的音)と日本語では聞き慣れないoeとy(中間音:反応抑制音)の5種類の母音によりMMN及びP3b(カウント条件並びにボタン押し条件)を記録した。脳波の記録部位は正中線上前頭、中心、頭頂の3部位と左右中心の計5部位である。その結果健常児と自閉症児の間に明らかな差が認められたのはボタン押し課題時の抑制音に対するP3b振幅のみであった。ボタン押し課題中の反応抑制刺激に対する自閉症児のP300低振幅は自閉症児における標的と反応抑制刺激の識別成績の低さと結びついている可能性が推測された。
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