上皮細胞の細胞膜はタイト・ジャンクションによって頂端面と側底面とに物理的に隔てられており、発現する膜蛋白質も異なる。われわれが新規に単離した上皮細胞特異的に発現する分子μ1Bを含む複合体AP-1Bは新規に合成された蛋白質の側底面への選別輸送を制御する。ポリオウイルス受容体にはαとδの2つのアイソフォームが存在するが、われわれはαがμ1B依存的に腸管上皮細胞の側底面へと選別輸送され、δはμ1Bと結合しないため頂端面と側底面の両方にランダムに輸送されることを見出した。また、上皮細胞はフィルターメンブレン上で培養すると1層の細胞層を形成するが、μ1Bを欠失した上皮細胞では1層とならず多層に折り重なって増殖する。これは、正常な上皮細胞がメンブレンに平行方向に分裂するのに対し、μ1Bを欠失すると分裂の方向がランダムとなるためであることを明らかにした。 μ1Bが上皮細胞の単層形成に必要であることから、組織・器官の形成に重要である可能性がある。そこで、μ1B遺伝子欠損マウスの作成を試みた。μ1B遺伝子欠失変異を起こすための組換え用ベクターを作成し、マウス胚性肝細胞(ES細胞)に導入することによりμ1B対立遺伝子の一方に変異をもつES細胞株の樹立に成功した。現在この細胞株を用いてμ1B遺伝子欠損マウスの樹立を試みている。 また、神経細胞特異的に発現し、シナプス小胞の形成やシナプス小胞の積み荷蛋白質の小胞への選択的取り込みに関与すると考えられるAP-3B複合体のサブユニットμ3Bの欠損マウスを作成・解析している。その結果、μ3B欠損マウスはてんかん様の痙攣を起こすことがわかった。このマウスでは抑制性神経伝達物質GABAの海馬切片からのKCl刺激による遊離が正常マウスに比較して約半分に減少していたことから、GABAによる神経伝達の抑制に障害があるため痙攣が起こることが示唆された。
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