平成13年度は若紫巻から少女巻までの準拠と典拠の調査と整理、検討を行った。源氏物語全体の中でも準拠、典拠のきわめて多い部分である。『河海抄』『花鳥余情』『細流抄』『岷江入楚』等の指摘を中心にして、中世近世のその他の注釈書類の指摘をも適宜取り入れた。注釈書により同じ準拠、典拠を指摘していても、その意味づけが異なることが具体的に確認できたこと、そこに各注釈書の性格や方法の違いが鮮明であること、さらに時代による源氏物語の読み方や解釈の変化などが見て取れることなど、成果は多い。 「「桐壼」巻の準拠・典拠についての諸注集成と注解-源氏物語の準拠・典拠についての研究(1)-」を明治大学文学部紀要『文芸研究』86号(2001年8月)に発表した。「中世源氏学から見た桐壼巻-桐壼巻研究小史-」(鈴木一雄監修・神作光一編集『増補改装源氏物語の鑑賞と基礎知識 桐壼』至文堂、2001年11月)では、「桐壼」巻の準拠・典拠の方法が源氏物語の第一部全体に及ぶ謎かけの方法として独自な物語構成に生かされていることを論じた。 「源氏物語と諷諭の方法-『白氏文集』「諷諭詩」との関わりを中心に-」では、「帚木」巻の『白氏文集』に典拠を持つ物語がその「諷諭詩」に倣うものであるとともに、その「諷諭詩」を典拠とすることで「帚木」巻の物語は平安時代の貴族社会の現実を批判的に描く方法として有効に利用していることを論じた.(『白居易研究年報』2号、勉誠出版、2001年5月)。
|