1.反陽子原子は生成後、10^<-12>秒(ピコ秒)ほどで反陽子が原子核に吸収され崩壊してしまうことが知られていたが、10年ほど前に日本のチームが、Heに反陽子を捕獲させたときだけ、その3%ほどは6桁も長いマイクロ秒ほどの寿命をもつことを見いだした。実験はHe以外の希ガス、水素分子、酸素分子、窒素分子にも拡張されたが、これらでは異常長寿命反陽子原子は全く見つかっていない。本研究では、Li原子による反陽子捕獲断面積を古典軌道モンテカルロ法で計算し、主量子数も角運動量も高い、近サーキュラー状態の反陽子Liが効率よく生成されることを見いだした。これらの反陽子Liはオージェ電子放出に対して寿命が長いことから、He以外では初めての異常長寿命反陽子原子が生成可能であることが結論された。 2.陽電子を原子にぶつけると原子内電子と対消滅を起こす。その断面積を従来の理論で計算すると、ポジトロニウム(Ps)生成のしきいエネルギーE_<th>に近づくにつれて急激に増大し発散してしまう。これは従来の理論の、Psが有限寿命で消滅する効果を正しく取り入れていない欠陥のためである。Schroedinger方程式の範囲内でこのQED効果を正しく考慮するため、虚数ポテンシャルによるポジトロンフラックスの吸収との技術により、新たな陽電子衝突理論の定式化を行い、H原子標的の場合に応用し、超球座標結合方程式法で数値計算した。E_<th>の十分下では従来の陽電子消滅断面積に近づき、E_<th>でも発散せず、E_<th>の十分上では従来のPs生成断面積に近づく、滑らかな断面積を得た。この定式化により、陽電子消滅の2機構、Ps生成後にその束縛状態中で起こる消滅と、直接衝突の途中で起こる消滅とが、原理的に分離できないことが判明した。
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